さて、ラベルから日本酒を読み解くための知識として
と続けてきたが、 今回を最終回として、ラベルから日本酒を読み解く3(米と醸造)は、ラベルから読み取れる酒造好適米と醸造方法の話をしてみたい。
日本酒は、ご存知の通り米から作られる。米の種類によって酒の味の方向性大きく変わる。酒作りのための最も重要なものと言って良い。特に酒を醸造するのに適した米、酒造好適米の特徴を覚えたい。有名どころをいくつかピックアップしてみた。
酒造好適米とは。言葉の通り酒造りに適した米を差し、食用の米と比べて粒は大きい。
酒造りに適し、タンパク質の少ない米の中心部の「心白」と言われる不透明な白い部分が多いとされる。
山田錦
まずはここだろう、日本酒をあまり飲まない方でも名前くらいは聞いたことくらいはあると思う、おそらく酒造好適米の中で最も有名だと思われる。
主な生産地は兵庫県。全国の総生産量の約8割が兵庫県で栽培される。「特A地区」のものが最上と言われる。栽培が非常に難しいことでも有名。 香りが良く柔らかなふくらみがあり、すっきりとした味になる。
五百万石
新潟県が代表的な産地である。 山田錦と並んで酒造好適米の双璧をなす二大巨頭として知られる。 淡麗で後味のすっきりした酒になる。
美山錦
主な生産地が長野県。長野の美しい山々の中で生まれ、雪のような心白があることから命名された。五百万石に似て淡麗で軽快な味わい。 金紋錦
長野の木島平村でしか栽培されない希少種。美山錦と比べて栽培が難しいため一時期は絶滅の危機陥った。複雑な香りと旨味が特徴。
雄町
主な栽培地は岡山県。酒造好適米の中で最も古い品種。優秀な酒造好適米である山田錦や五百万石の親にあたる。香りは少ないが、米の旨味を感じ、コクのある酒になる。
八反錦
主な栽培地は広島県。大粒で心白も大きい。香りが高く淡麗な酒になる。 愛山
兵庫県の一部農家で栽培される。戦前から栽培され歴史は古いが栽培が難しいなどの理由で、剣菱酒造との契約農家で密かに栽培される程度だった。 阪神大震災で剣菱酒造が被災したことを機に、十四代で有名な高木酒造が使用したことにより全国区に躍り出る。 酸度が高く飲めごたえがあり。濃醇な米の甘みが感じられる旨味の多い酒になる。
亀の尾 山形ので栽培され、70年代に一度栽培が途絶えたが、これを復活させた久須美酒造の「亀の翁」をモデルにした漫画「夏子の酒」で一躍広く知れ渡る。 キリっとした品の良い爽やかな酒になるのが特徴。
出羽燦々
主な栽培地は山形県。淡麗でスッと切れ味の良い味になる。
北海道の吟風や彗星などまだまだ紹介したい酒造好適米もあるが、それはまたどこかのタイミングでお話ししたいと思う。
米の違いを楽しむために同銘柄の米違いを飲み比べるのも楽しいものである。
さて、最後に醸造に関わる表記について知っておきたい。
生酛造り
生酛系酒母という自然の乳酸菌の力で雑菌を排除して、酵母が活動しやすい状態をつくり、時間をかけてゆっくりとアルコール発酵を促進する。また、「山卸し」という米をすり潰す作業を行う。簡単に言えば、江戸時代から続く伝統的な手法のことである。 すっきりときれいな味わいの中にも旨味やコクを感じる、長い後味が特徴であるが、自然の力を利用するため管理が難しく品質を一定に保つのが難しい事と、仕込み時間に約4週間かかる等の問題もある。
山廃造り
山卸廃止酛造りの略で、明治時代に発見された製法で生酛造りの一部手順を変えることで、山卸の作業をせずに生酛造り同様の効果を得ることのできる醸造方法。
簡単に言えば、生酛造りから「山卸し」の工程を省略しながら生酛の特徴を残したものである。 速醸酛造り
生酛造りや山廃造りとは違い、人口の乳酸を添加する醸造方法。生酛造りや山廃造りに比べ、圧倒的に時間の短縮(約半分)ができ、なおかつ品質の安定を図れるため、現在もっとも主流である。何も表記さてないものは基本的にこの製法と思っていい。 このように醸造方法は大きく分けて、自然の乳酸菌を使って酵母の働きを促進する方法と、人工的な乳酸を添加する方法に分かれる。
製法ではないが最近目にする文字がある。
BY ここ数年で表示されるようになったものでBrewery Year の略。つまり醸造年度を表す。27BYの場合は、平成27年7月から平成28年6月末までを表す。 これは、酒の製造年月日の表示に秘密がある。 酒の製造年月日とは、醸造日ではなく瓶詰めされた日を表しているため、今年の新酒でも、長期貯蔵された古酒でも、瓶詰めされた年月日が同じなら製造年月日は同じになるのだ。 これでは、せっかくの熟成期間も伝わらないため、製造年月日とは別に、醸造年度を表示する必要があった。 ここ数年の熟成ブームの余波を受け使われるようになったもののように感じる。
さて、3回に渡った「ラベルから日本酒を読み解く」であるが、この情報はあくまで方向性を確認できる程度の話で、「美味い酒」が判るわけではない事を再度付け加えておこう。
日本酒はこんな薄っぺらな情報で理解できるほど簡単でなく、また酒造元の努力により様々な表現があり面白い美味い酒は沢山ある。
正直、私の知らない酒もいくらでも存在するのである。
それでも居酒屋や、最近流行りの日本酒BARなどで、失敗したくない方に最善の方法をお伝えしようと思う。
「甘い」、「辛い」ではなく、今までにあなたが自ら飲んで美味いと思った酒を基準にして「私はこんな酒が好きだから、何かおすすめはありますか?」と店員に伝えてみるのがいい。それを一杯頂いてから、もっとフルーティな香りが欲しいだとか、いやいや米の旨味を感じたい。など、あなたの好みを伝えるのが最善だと思う。そして新しい発見があった時にはその銘柄を覚えておく。そして二度目の来店時には「前回頂いた〇〇が美味しかったので、そんな感じでおすすめをお願いします。」基本この繰り返しで良いと思う。
お店によっては、20ccほどの味見をさせてくれたり、いくつかの銘柄を飲み比べられるセットを用意している場合もあるので、これを利用するのもいい。
とにかく中途半端な知ったかぶりが一番カッコ悪いと思う。
固定観念に流される事なく、自由な観点から楽しんでいただきたいと切に思うのである。
それでは、 あなたのマイぐい呑みライフに乾杯!