いよいよ「向付(むこうづけ)」や「椀刺(わんさし)」と呼ばれる、「刺身」の登場である。
これは日本酒には、最高の肴と言える。料理人にとっても、「椀物」とともに、これを客に出すのは最も重要な仕事であり、そのため通常は板長、料理長と呼ばれる、板場の責任者である料理人がこれを担当する。
「刺身」の語源は、むかし客人が切り身の状態では、何の魚の刺身かわからないので、料理人が魚のヒレを刺身に刺しておいたところから出来た言葉と言われる。以前は「差身」と書いていたとのことだ。
また、かの美食家「北大路魯山人」は、「刺身」はその名の通り、刺すように切らなくてはならない、包丁を引いて切っているようでは美味い刺身は出来ないと言っていたらしい。個人的には、ブロックに切る以外、押し切りしたら潰れてしまうのではないか?と心配になる。
ところで、刺身は基本的に奇数になるように盛られているが、あなたは気づいていただろうか。3点盛り、5点盛りなどや、また切れの数も偶数はない。これは「奇数は割り切れない」ため縁起の良い数字とされている為である。面白い決まりごとである。
「刺身」を食べるときの作法としては、手前から。そして味のうすい白身などから箸を付けたい。
刺身といえば、つきものは、山葵、醤油、ツマであるが、コトのほか山葵の使い方には気を付けたい。この山葵を醤油に溶く行為は、美しくないばかりか、山葵の香りも飛んでしまうので好ましくない。山葵は、刺身の上に直接のせて醤油をつけて食べたい。このとき醤油が垂れないように注意したい。
左手を受け皿にしている光景をよく見かけるが、よろしくない。もちろん、顔を下げて口を刺身の方へ持って行くのは下品である。
不安があれば、醤油皿を持ち上げた方が所作がきれいで良い。