マイぐい呑を楽しむのであれば、個展も楽しみたい。 全国には、様々なギャラリーがある。 普段の常設でも多様なぐい呑を観るという点では、ある程度その用件は達成できる。 しかし、個展となると話しが少々変わってくる。 出品した作品に対する作家の意気込みが、それまでとは全く異なっていく。作家たちは、個展に向けて作陶し、現時点で最高のパフォーマンスを見せる場所となるのである。 そもそも、個展を開催することは若手作家にとってかなりの難関であることは、容易に想像できるもので、ギャラリー側が「売れる」と判断しない限り開催されることはない。 また、ある程度売り上げが見込めたとして、頻繁に個展を開催するギャラリーでも、月2回から1回である。人気作家ひしめく中、この1回を勝ち取らないとならないのだ。 こういった意味でも、個展は作家にとって特別で作陶に力が入るのである。場合によっては、1度の窯焚きだけでなく数回の窯焚きで出た良品のみを集めて個展に臨む作家も多いと聞く。 最近気になっている作家がいる。 寺田鉄平氏。 私には珍しく、備前や唐津ではなく瀬戸の作家である。 出会いは、今年の初めに浅草で開催された「激陶集団へうげ十作展【浅草甲乙数寄合戦】」である。 この実践マイぐい呑でも、この日同時に行われた、佐々木達郎氏による器使いと利き酒のワークショップの様子を紹介している。
この「へうげ十作展」では、現代アート的でポップな作品が多いが、彼の作品だけは「ザ・古典」である。 青味を帯びた深い緑と寂た風情が、男心をくすぐる。どんな爺さんの作品かと、プロフィールを見れば、1975年生まれとある。同世代だ。笑 この時は、残念ながら顔を合わすことは叶わず勝手な印象ではあるが、まるで柳家三三の落語のようである。フフフ。 ニヤニヤしながら、目に付いた作品を3点ほど頂いてきた。向付3点。実は、ぐい呑ではない。
そんな出会いから、約半年。 銀座の黒田陶苑で個展を開催する情報をキャッチ。これは行くしかない。 実は、前日に仕事先で飲みに誘われ、朝7時帰りの当日。3合ほどしか呑んでないのに吐き気と寒気を感じる、ひょっとして食当たりか? 3時間ほど仮眠をとるが、自宅で3度ほどリバース。 個展を見た後に、娘と映画を観る約束もしているし、次の休みには個展が終了してしまうため、 滅多にない絶不調で満身創痍の身体を引きずりながら有楽町に到着する。 追い討ちをかけるように、梅雨明けしたはずの空から、ポツポツとしたものを感じる。サイアクだ。 途中、薬局に寄り、眉唾的なプラシーボ効果を期待しつつヘパーリーゼをドーピング。 人通りの少ない裏路地を選びながらギャラリーに向かう。看板が見えた。何度となく歩き慣れた道のりが今日ほど遠く感じたことはない。
銀座黒田陶苑 東京都中央区銀座7-8-6 電話03-3571-3223 http://www.kurodatouen.com/ さて気持ちを切り替えて個展に挑む。 深呼吸して・・・「おとっちゃん、こっちだよ!」ってオイオイ。娘よ、私より先に店内に飛び込むのはヤメテクレ。 慌てて店内に入ると、店内には女性店員さんと男性が一人。 あ、寺田氏だな・・・。 心で思うが、元来の人見知りで引っ込み思案な私。なかなか声が掛けられない。 「上で個展を行なってますので、ぜひご覧ください」と女性店員さん 銀座黒田陶苑は、1階が常設で2階以上で個展などを行なっている。 いざ2階!勝負!
そこはパラダイスの始まり。 興奮ぎみに目を丸くして作品ひとつずつを舐めるように観覧する。
寺田氏と2人っきりになったタイミングで 「ご挨拶が遅れました、マイぐい呑のススメをやってる讃岐です。こんな感じです。笑」と勇気を振り絞って話しかけてみる。 「讃岐さんですか!?いつも似顔絵なのでわかりませでした!!」 挨拶も済ませ、緊張感がやんわりとほぐれる。 直接、作家から作陶に対する考え方や裏話などを聞きながら、作品を観ることができる。フフフ。
気に入ったモノがあれば、 「触ってみても良いですか?」と断わりを入れて、しっかりと感触を確かめる。イヒヒヒ。 アレも、コレも、ソレも素敵だわ。迷っちゃう〜。っと、脳内にアドレナリンやドーパミンがバンバン出ているのを自ら分かるくらい、変なテンションになっている。
ウホホッ こんな所に尾形乾山を彷彿とさせるお皿がある。金彩を施して侘びを感じるモノは少ない。恐るべし。 厳選したぐい呑2個。 徳利と片口。 さらに先ほどの皿で悩む。 厳選した上での一択には、最近娘の意見を聞くようにしてる。 コレが、実に面白い。 彼女は、なんの根拠かわからないが「コッチ!」と決める。理由はわからないが、2度聞こうが、3度聞こうが、迷いなく同じモノを選ぶ。 恐るべし4歳児。 私「ゆうさんこのぐい呑、どっちがいい?」 娘「うんとね、コッチ!」ウンウン。 私「この片口はどう?」 娘「それは、ダメだよぅ、丸くて綺麗なのウチにあるよ、ゆうさんそっちの方が好き。」ヘヘェ。 私「じゃあ、この中(徳利)でどれが一番好き?」 娘「ちゃんと見えないからダッコして。う〜ん。コレがいい。」ホホゥ。 私「じゃあ、コレと、コレ(娘チョイス)あとこのお皿下さい」 「ええぇ!良いんですか?」驚く寺田氏。最終決定を4歳児に任せて器を買う変人は、私ぐらいだろう。笑
「英才教育です。先日なんかは、知らないうちに、山田和さんの嚇釉織部飯碗でご飯食べてまして・・・贅沢な子ですよね。笑」
親バカ全開の会話を楽しみながら、一階に戻り梱包をお願いする。 いやはや、堪能した。
良き器に囲まれる時間。作家と直接対話のできる時間。心が癒されるような良い時間である。
最後に、寺田鉄平氏、店員さんにお礼をし店を出た。
気がつけば、絶不調だったことも忘れてしまっている。いや、もしかしたらこの個展に癒されて体調が回復したのかもしれない。 さあ、娘と約束した映画を観に行こう。
それでは 皆さんの楽しい「マイぐい呑みライフ」に乾杯。
※今回の戦利品がこちら、娘が選んだぐい呑と徳利。金彩の黒織部皿。
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